実際、他人に性器を見られる恥ずかしさから、包茎手術を実行する中高年男性もいる。
埼玉県蕨市にある「ももたろう腎・泌尿器科クリニック」院長で、日本泌尿器科学会泌尿器科専門医の船橋健二郎医師は、「ここ10年で包茎手術を受ける中高年男性は、若干ではあるが確かに増加している」と話す。
「当院では、年間10人前後、全体の10%程度が中高年の患者さんです。実際に嫌な経験をしたから手術を受けたいという方が多いですね。入院したときに看護師さんに包茎であることがばれて恥ずかしかったという方もいますし、持病の手術のときにカテーテルが尿道に入りづらく大変な思いをしたので皮を切りたいという方もいました」
船橋医師が話すように、中高年男性が包茎手術を希望する背景には、羞恥心の問題だけではなく、カテーテルによる導尿や陰部洗浄といった医療・介護行為に支障が出るのではないかといった不安もあるようだ。
一方で、船橋医師は「包茎は不潔で、感染症のリスクがあるという情報は不正確だ」と指摘する。
「確かに『真性包茎』の場合は、高齢期になると陰茎がんのリスクが高まるほか、炎症によって痛みやかゆみなどが出ることもあるため、保険診療による手術をお勧めしています。一方で、『仮性包茎』が原因で細菌感染することは考えにくい。よく患者さんにも話しますが、字を書いたり、お箸が持てるくらいの力があれば性器は洗えるんです。自力での入浴が困難な方でも、湯船につかって指先でこするだけで清潔に保てます」
仮性包茎でいることに過度な不安や羞恥心を感じてしまうのは、信頼できる医療機関からの情報発信がまだまだ少ないという要因もある。また、性器の悩みに関しては、恥ずかしさから家族や友人に相談できない人も多い。その結果、一部の美容整形クリニックの過剰な宣伝文句に不安を煽られ、意図せず高額な手術をしてしまう人もいる。
船橋医師は、「仮性包茎の手術は、自由診療による“美容整形”の範疇(はんちゅう)なので、最終的には患者さんが納得できればよい」としたうえで、「もし手術する場合は、事前説明やアフターケアが丁寧な病院を選んでほしい」と注意を促す。