包茎手術やアンダーヘアの脱毛処理を受ける40~60代の中高年が増えている。人によっては「なぜその年になって?」と疑問に感じるだろう。背景には、十数年後のわが身に迫る「介護」の問題が見え隠れしている。
【写真】こちらも近年増加中…男性のアンダーヘア脱毛の施術の様子
出版社に勤務する40代男性は、8年前、高熱で動けなくなった体験をきっかけに、「自分が介護されるときのこと」を考えるようになった。
「山へキャンプに行って帰ってきたあと、40度近い熱が出て、2週間くらいまともに動けなかったんです。当時は、アパートで一人暮らししていたので、看病してくれる人もおらず、ベッドでじっと寝ていることしかできませんでした」
幸い、体調は快方に向かった。その後、男性は友人たちと飲みに行った折に、そのときの苦労話を披露したが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「体がだるくて風呂にも入れないし、洗濯もできずに大変だったという話をしたら、『においとかやばそう』って言われたんです。もちろん冗談なのはわかりますけど、恥ずかしかったですね」
そのときふと、男性の頭を不安がよぎった。将来、自力で入浴や排泄ができなくなったらどうなるのか。おむつになれば、日に何度も自分の下半身や尿便を他人に見られる。においも当然あるだろう。そう考えると、途端に自分が仮性包茎であることも気になってきた。
「やっぱり人に見られたくないという気持ちは強いですし、性器を清潔に保てるのかという不安もあります。認知症になったら、体の汚れや異常を自覚できなくなる可能性もありますし。手術したほうがいいのかとか、いろいろ考えちゃいますね」
男性の心配は、杞憂と言い切れない。「令和2年版厚生労働白書」によると、2016年時点での健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は、男性が約72歳、女性が約75歳。平均寿命から健康寿命を差し引くと、男性は9年間、女性は12年間、家族や介護福祉士などの助けを借りながら生活することになる。ほとんどの人は、晩年に、入浴や排泄といった極めて私的で、個人の尊厳に関わる行為を「他人に任せる」ことになるのだ。