宮崎駿監督の作品は、フィクションなのに、リアリティーを感じさせます。「千と千尋の神隠し」で、千が働くことになる油屋の風景や、「となりのトトロ」で描かれるメイの所作は、現実にありそうな場所や表現で、観客は引き込まれます。没入感とも呼べるのですが、観客は「どこか現実にありそうな雰囲気」を感じながら作品を視聴するのです。
この没入感を出すため要素の一つが、現実に即した設定です。千と千尋の神隠しの「湯屋」も、もののけ姫の「タタラ場」も、公衆浴場や製鉄所として実際にあった施設です。湯屋も、もののけ姫が住む森も、全てモデルとなった施設や場所が実際に複数あり、膨大な構想を練って作成されています。
登場するキャラクターの言動も秀逸です。「風の谷のナウシカ」では、主人公の少女ナウシカが怯えるキツネリスにわざと指を噛ませて安心させます。このシーンだけで、それまでの彼女の生き様や価値観が、観客の腑に落ちます。完全にフィクションで架空の人物なのにリアリティーがあり、「現実にいる」かのような印象を受けます。考察されるアニメや作品というのは、前提として必ず「リアリティー」があります。スタジオジブリの作品は特に、このリアリティーが十分にあるために、考察されやすいのです。
「匂わせ」と「リアリティー」、この2つの要素が合わさるとフィクションの物語であっても現実に即した仮説が立てられます。そしてその仮説もリアリティーを持ち、都市伝説のような考察として盛り上がる…このように考察のジャンルは盛り上がり、YouTubeでも人気のジャンルの一つとなっています。
多くの考察がされる作品は良い作品です。原作で全ての答えを言ってしまうと、ファンの議論や考察の余地がなくなってしまい、ファン同士で話し合って盛り上がりことができません。ミステリアスな女性の方が魅力的に見えるように、作品にはある程度の謎やヒントが残っていた方が、より魅力的になります。アニメや漫画や映画を観た後に、「あのシーンはこうだったのではないか、こんな意味があったのではないか」などの感想が湧いてくる作品は、ファン同士で楽しめる作品です。
自分がコンテンツや動画を制作するときは、伏線とは別に「考察されるポイント」をあえて作っておくと、ファンが考察して楽しめる作品になります。