ところが今や、異なる経済段階に入り、日本人の均質・横並び・指示待ち体質が衰退要因にもなっています。例えば娯楽やサービス業では、「他と異なる」ことで価値が生まれます。人種・ジェンダー・知識・趣向の雑多性、多様性が競争力の源になるわけです。教育面から根本的に変えていかないと、衰退は止まらないでしょう。

古川:こんな危機になってもまだ「変わらない」「変えられない」理由は何だとお考えですか。

磯田:それは、日本人の「見立て」の習性です。それも事実やリスクを直視せずに、都合よく安易な方向にみなしてしまう傾向がある。戦時中は「神風が吹く」。クリーンエネルギー推奨時は「原発事故は起きない」。コロナも同様です。Go Toキャンペーンでも五輪開催でも、「感染は広がらない」と見立てて既存路線を変えない。

 日本人が勝手に見立てても、ウイルスは物理現象。感染は起きます。現に変異株も日本国内に広がっています。コロナ対策では現実をみて嫌でも苦しくても実効ある新しい手を打つべきです。

古川:起きてほしくないことは起きないことにして、現実を見て見ぬふり、聞いて聞かぬふりをする。そうした日本人の習性は戦前から続いていますね。それこそ山本七平の名著『「空気」の研究』で「今では空気への抵抗そのものが罪悪視されるに至っている」と指摘された日本の弱点そのものです。結局、どうしようもない局面になってようやく重い腰を上げてかじを切る……。そうした状況に追い込まれない限り、自発的に変えられないんです。

磯田:でも、最悪になる前に変えるのがいいのは言うまでもありません。外圧なしに変貌(へんぼう)できた例は、鎌倉武士が鎌倉幕府を樹立した、あの一度きりかな、と思うこともあります。「土地」と「家」に対する強いこだわりが、内発的変化を引き起こしたのだと思います。でも今や、土地に対してそれほどの執念は持てない時代です。自発的に変わるには相当の自覚と覚悟が要ります。

(構成/大場葉子)

磯田道史(いそだ・みちふみ) 1970年、岡山県生まれ。国際日本文化研究センター教授。慶応義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。著書に『歴史の読み解き方』『無私の日本人』など。

古川元久(ふるかわ・もとひさ) 1965年、愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。96年、衆議院議員選挙初当選。以降8期連続当選。著書に『財政破綻に備える』など。

水野和夫(みずの・かずお) 1953年、愛知県生まれ。法政大学教授。早稲田大学政治経済学部卒。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。著書に『資本主義の終焉と歴史の危機』など。

週刊朝日  2021年6月11号より抜粋

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