古川:私もそれを最も危惧しています。日常をおびやかす危機は人々の不安感を高めます。すると、普段は気にならないことにも過剰反応してしまう。コロナ禍における差別や中傷がその実例です。たかが言葉だと放っているうちに、いつしか後戻りできない世界大戦へと突入してしまった100年前の歴史を、私たちは何度でも思い出すべきです。

磯田:いかに現実を冷静に受けとめるかが、ますます重要になりますよ。

古川:その通りです。危機の根はいつの時代も日常にあるのです。人々に広がる不安をどう鎮めるか。今こそ政治がその役割をきちんと果たしているかが問われています。「こんなに自分たちは我慢しているのに、政治は何をやってるんだ」という多くの国民の声は、状況が切迫していることを如実に示しています。

水野:大多数の中間層を救うために、資本主義経済は何ら役割を果たせていません。昨年、コロナ下で世界のビリオネア(最富裕層)の総資産額が、過去最高の10兆2千億ドルに達したと報道されましたよね。

古川:はい、各国金融界で、行き場のないお金が株式市場に流れ込んでいます。コロナバブルと呼ばれるゆえんです。

水野:2020年の春から夏にかけてだけでも、27.5%も資産を増やしています。しかし、このパンデミックで、10兆ドルの半分である5兆ドルでも寄付があった、というようなニュースはちっとも聞こえてきません。16世紀末にイギリスの海軍提督に上りつめたドレイクでさえ、海賊時代に強奪した巨額の富の半分を国家に寄付したというのに。

 持つ者と持たざる者の差が危機的状況でも一切変わらず、むしろ拡大しているのです。働く人々をオンライン業務ができる人とできない人に分けて、最前線で感染の不安に対面している人らを赤字や廃業に追い込んでいる。「やりたい放題の資本主義」の猛威に対し、労働力を担う中間層はなすすべもない、というのが現実なのです。

磯田:分厚い中間層を持つことが日本の強みになっていたのは、1980年代までです。識字率が高く、マニュアル通りに上手に物事をこなす人々が工場型経済を支え、「1億総中流」、有配偶率の高い均質的な昭和の家族社会を実現した。原型は、江戸時代の小農民自立でつくられ、背後には「家意識」があったわけです。

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