それでもいったい、命と引き換えの、生活と引き換えの「感動」にいったいどんな価値があるというのだろう。どう考えても、この国に生きる多くの人が反対を表明し、政府に寄りそってきた専門家までもが「普通ではない」と開催に疑問を呈し、医療崩壊が懸念され、予測できない変異株が猛威を振るうなか、経済的に追い詰められている人が増え、自死者もじわじわと増えている状況で、なぜスポーツを観戦しなければいけないのか。やっぱり、わからない。生きるためにも、生活を守るためにも、冷静な判断でオリパラを諦められる国であってほしいと私は思う。人の弱さを利用し、感動を強要する国なんて嫌だ。
今年も暑い夏が来る。オリパラを止める立場にないと菅首相は言っていたが、だったらこの国に暮らす「私たち」の声で止めるしかないのではないだろうか。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表