眠れない、気分が落ち込む、意欲がわかない……。そんな症状が続いているという高齢者は注意が必要だ。実は老年期の“隠れうつ”のサインかもしれない。放っておくと身体機能の低下を早めたり、別の病気を引き起こしたりすることもある。躊躇(ちゅうちょ)せず、早めに診断を受けよう。
【前編/老化現象ではなかった! 見過ごされる「隠れうつ」にご用心】より続く
高齢者のうつは老化現象と混同されることが多く、特に認知症の症状と似た例が多いことから、臨床の現場でも混乱が起こりがちだという。
認知症外来を受診する患者の5人に1人はうつ病性障害であるとも言われる中で、認知症とうつ病とを見分ける一つの基準となるのが、症状が表れるスピードだ。
「脳が少しずつ変遷し、ゆっくりと症状が表れる認知症に対し、ある特定の時期を境に変化してきたというのがうつ病のパターン。徐々にではなく、急に様子がおかしくなってきたのであれば、うつ病を疑うべきです」(『老人性うつ 気づかれない心の病』などの著書がある精神科医の和田秀樹さん)
高齢者のうつは、身体的な症状が表れやすいのも特徴の一つだ。立ちくらみ、頭痛、耳鳴り、しびれ、肩の痛み、動悸(どうき)、関節の痛み……こうした不定愁訴を訴える人が多いという。さらに、起きた直後など、夜より朝のほうが調子が悪いというのも特徴だ。
「気分の問題だけではなく、身体的な症状のサインが出るというのが高齢者のうつで非常に多く見られる傾向。気分の不調や、落ち込みがちという時点では、他人に訴えづらいという人も多いですが、身体の不調であればもっと訴えやすい。内科的な診断で一通りチェックしてもらい、原因がわからないということであれば、うつ病の可能性も考えてほしい」(国立長寿医療研究センター精神科部長の安野史彦さん)
認知症にも多く見られる「物忘れがひどい」という例は、うつ病でも見られる症状だ。ポイントはその説明の仕方。同じ物忘れでも、認知症の人は「最近ちょっと物忘れがあって……」や「少し忘れっぽいけど、これぐらい年相応だと思う」といった例が多いのに対し、うつの人は「最近もう何をやってもダメで……」と自責的な説明になることが多いという。