やはり、親友の正岡子規に宛てたものが圧巻で読ませます。二人の友情は並々ならぬものがあります。漱石の人生観、死生観を知ることができる書簡もあります。

 弟子の森田草平に宛てて「君、弱いことをいってはいけない。僕も弱い男だが弱いなりに死ぬまでやるのである」「今でも御覧(ごらん)の通りのものしか出来ぬが、しかし当時からくらべるとよほど進歩したものだ。それだから僕は死ぬまで進歩するつもりでいる」と書いています。また、門下の岡田耕三にはこうあります。

「私は意識が生のすべてであると考えるが、同じ意識が私の全部とは思わない。死んでも自分はある。しかも本来の自分には死んで始めて還れるのだと考えている」

 やはり漱石は、死後の世界の存在を信じていたのです。しかも、死んでから、本来の自分に還(かえ)れるというのです。私もこれを読んで死ぬのが楽しみになりました。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年6月25日号

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