■見解の違いを超え守る
東京展だけではない。公開中の映画「狼をさがして」を、神奈川県厚木市の映画館が上映を取りやめた。映画は、韓国人のキム・ミレ監督が、1974~75年にかけ三菱重工本社ビル爆破事件などを起こした「東アジア反日武装戦線」を追ったドキュメンタリー。同館は5月8日から上映を予定していたが、同月1日に上映中止を発表した。右翼団体が他の映画館で執拗(しつよう)な街宣活動を行ったのを受け、施設内の安全を優先したという。
ヘイトスピーチ問題などを取材するジャーナリストの安田浩一さんは、こう指摘する。
「一連の妨害活動の背景にあるのは、『反日』をキーワードとしたレイシズムであり排外主義。そうした排他的な者に対し毅然(きぜん)と対応できていない、私たち社会の脆弱(ぜいじゃく)性を突いたものだと思います。社会を強くするには、レイシズムは許さないという反差別規範のようなものが必要。その上で、『社会を壊すな、これ以上』と攻撃する側に向け伝えていくことが重要です」
先の志田教授は言う。
「自分にとって嫌いな表現であっても、表現の土俵を奪ってはいけない。批判するにも作法があります。平穏な生活を送る権利を害したり、名誉毀損(きそん)や侮辱に当たる行為は許されない。その知識と意識を社会が共有し、見解の違いを超えて表現の自由を守る社会的環境をつくっていく必要があります」
東京展は会場を変更して行われる予定だ。前出の岡本さんは、力を込めて言う。
「開催は中止しません。それが、卑劣な妨害には屈しないということです」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年6月28日号
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