今年亡くなった藤子不二雄(A)さんへ、藤子不二雄研究家・稲垣高広さんが別れの言葉を送る。
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先生の作品との出合いは、小学校4年生のときに読んだ『魔太郎がくる!!』。地味で非力ないじめられっ子の中学生、魔太郎が「うらみ念法」を使って復讐する物語です。当時の私は特にいじめられていたわけではないのですが、集団になじむのが得意ではありませんでした。そんな私にとって、魔太郎の物語は共感できて、スカッとする内容で引き込まれました。
引きこもりの青年を描いた短編「明日は日曜日そしてまた明後日も……」や「夢魔子」の一話「城」など、先生の作品は、どこか生きづらさを感じている青少年が中心人物になることがよくあるんです。『笑ゥせぇるすまん』も、喪黒福造を狂言回しにしつつ、各エピソードの主役になるのは、さえない感じの男性たちです。
先生はエンタメとして漫画を描かれていますし、読者もエンタメとして楽しんでいる。ただ、それ以上のものを与えてくれた。先生の作品群は、今でいう“陰キャ”タイプや、多数派の価値観に違和感を覚える人たちにとっての「魂のアジール(避難所)」ともいえる居場所になったと思います。