海外公演に同行したとき。次男に同行のカメラマンがインタビューをした動画が残っていた。「アイス好き?」「好きだよ(その日、三つ目のアイスクリームを舐めながら)」「それ、また買ってもらったの?」「うん。買ってもらえるまでギャーギャー言えば買ってくれるよ!」「………」。噺の参考にさせて頂きました。元は取れた。アイスくらい安いもんだ。
そういえばその後、フィンランドのヘルシンキ駅で機嫌が悪くなり脱走を図った次男。泣き叫んで駄々をこねる彼を同行者全員のキャリーケースで囲い込んだ。閉じ込められた次男はまたギャン泣き。アレはなんで泣いてたんだろう? 北欧のど真ん中で泣き叫ぶことなど、日本に生まれてなかなか出来ることではないからまぁいい経験だろう。電車のなかで妻からみっちり小言。しばらくメソメソしていたが、落ち着いたら、嬉しそうに、でも少し申し訳なさそうにアイスを食べていた。
「あの次男くんは元気ですか?」などとたまに聞かれるが、身長も妻を抜き、兄も抜き、私に迫る勢い。今、リビングで勉強中。来年は中3で受験。「……マジか?」と呟くと「マジだ!」と返してきた。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年12月16日号