天皇陛下(c)朝日新聞社(代表撮影)
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 人々の願ひと努力が実を結び平らけき世の到るを祈る
 
 今年3月の歌会始で披講された天皇陛下の和歌だ。人々の、新型コロナウイルスの感染収束への願いと、試練を乗り越えようとする努力が実を結び、安らかな世の中が訪れることを心から望んでいる、その思いを詠んだものだ。

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 しかし、国民が願うような感染収束の状況には至らないまま、東京五輪開催まで1カ月を切った。そのタイミングで出された「陛下が五輪で感染拡大を懸念」という西村泰彦宮内庁長官の拝察メッセージが波紋を広げている。

「ご自身が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか、ご懸念されている、ご心配であると拝察しています」

 そう話す長官に記者は、こう質問を投げた。

「仮に拝察でも長官の発言としてオンだから、報道されれば影響ある。発信していいのか」

 すると長官は、

「はい。オンだと認識しています」

 と、報道されることによる影響を覚悟した上での発言だと認めたうえで、こう続けた。

「私はそう拝察し、感染防止のための対策を関係機関が徹底してもらいたいとセットで」

 象徴天皇制に詳しい河西秀哉・名古屋大学大学院准教授は、「令和の天皇の『祈り』に近いものだ」と感じた。そのうえで、長官による拝察メッセージは、ふたつの意味があると分析する。

「(1)政権に向けて感染対策をきちんと行ってほしいという点と(2)人びとの安寧を願う気持ちです」

 元宮内庁職員の山下晋司さんは、こう話す。

「陛下と長官の間で、あうんの呼吸があったことは想像に難くありません。実質的な、天皇のメッセージと捉えるべきでしょう。陛下は、コロナ禍のなか、多くの専門家から直接、話を聞いてこられました。それらの情報を陛下ご自身が分析され、現時点での結論を出されたのだと思います。科学的根拠に基づいたご懸念と言っていいでしょう」

  天皇陛下は、コロナ禍が始まった当初からさまざまな分野の専門家から話を聞き、状況の把握に努めてきた。

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陛下の研究者としての思考が土台に