天皇陛下は7月23日に開会する東京五輪・パラリンピックの名誉総裁を務める/3月26日、歌会始の儀に向かう天皇、皇后両陛下 (c)朝日新聞社
天皇陛下は7月23日に開会する東京五輪・パラリンピックの名誉総裁を務める/3月26日、歌会始の儀に向かう天皇、皇后両陛下 (c)朝日新聞社
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1964年、東京オリンピックの開会式で、昭和天皇はロイヤルボックスから開会を宣言した/1964年10月10日、東京・国立競技場で (c)朝日新聞社
1964年、東京オリンピックの開会式で、昭和天皇はロイヤルボックスから開会を宣言した/1964年10月10日、東京・国立競技場で (c)朝日新聞社
長野冬季パラリンピック大会で会場を観戦に訪れ、会場で起こったウェーブに加わる上皇后さまと、笑顔の上皇さま/1998年3月11日、長野市のエムウェーブで (c)朝日新聞社
長野冬季パラリンピック大会で会場を観戦に訪れ、会場で起こったウェーブに加わる上皇后さまと、笑顔の上皇さま/1998年3月11日、長野市のエムウェーブで (c)朝日新聞社

 宮内庁長官は6月24日の定例会見で、天皇陛下が五輪開催が感染拡大につながらないかを懸念されていると「拝察している」と発言した。その背景と真意を読み解く。AERA 2021年7月5日号から。

【写真】1964年の東京オリンピック開会式の様子

*  *  *

「オリンピックを巡る情勢としまして、天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変ご心配しておられます。国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか、ご懸念されている、ご心配であると拝察しています」

 宮内庁の西村泰彦長官が6月24日の定例会見でこう発言した。開催反対の世論も根強いオリンピック・パラリンピック(以後、「五輪」とする)についての「懸念」。加藤勝信官房長官は「宮内庁長官自身の考えを述べられたと承知している」とコメントしたが、「そうね、長官の考えよね」と納得する人は少数派だろう。

■象徴天皇の振る舞い方

「長官が語ったことは陛下のお気持ちととらえて間違いないし、ご本人の了解は当然得ているだろうと私は考えています」と語るのは、元宮内庁職員で皇室ジャーナリストの山下晋司さん。「拝察」という言葉について、こう解説する。

「天皇の言葉は重いので、直接的な表現は慎重を期すべきです。さらに『陛下はご案じです』というと、政治的な話になりかねません。でも、『ご案じと拝察しております』と言えば、それは避けられます。そして『陛下も心配しておられる』という印象を、国民に与えることもできます。お気持ちが伝わることが大切なのであって、宮内庁長官には防波堤のような役割があるわけです」

 何からの防波堤かといえば、憲法だ。第一章「天皇」の第四条にはこうある。

 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 一橋大学の渡辺治名誉教授(政治学)は天皇の命令で戦争を招いた反省から憲法の「国民主権」があるとした上で、西村長官の発言についてこう述べた。

「(五輪のような)こうした政治的問題は国民や議員が自らの責任で決めるべきことで、国民主権を侵害するこの発言の危険性を認識すべきだ」(朝日新聞6月25日朝刊)

 名古屋大学の河西秀哉准教授(歴史学)が同じく朝日新聞に示したのは、「憲法に抵触しないよう配慮した形で、宮内庁はよくよく考えて発表した」という見方だ。「政権には感染対策の徹底を暗に求めることができ、国民に対しては、天皇が何もしなかったわけではないことを示すことができる」、と。

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