犯罪をエンタメのなかでどう生かしていくか。未成年が犯罪に手を染める話なので、かなりインモラルになります。書きようによっては露悪的なものになってしまうので、そう陥らないようにバランスを考えました。また、悪を描くにあたっては、フィクションだからといって突飛になりすぎると読み手はさめてしまいます。そのバランスにも気をつかいました。やりとりは明るく前向きなことにつながるように心がけていました。書き方としては、ラストは最初から決まっていました。はじめに全体を通して起承転結を決めて、書いている過程でこっちの話がいいと思ったら臨機応変に決めていました。
―――高校生の犯罪という深刻なテーマですが、やさしさ、思いやりを感じるところがあります。
そのように受け止めてくれたのはうれしいです。やさしさというより、いまの世の中、他者へのリスペクトが足りないと思います。個人の感情が尊重されていない気がします。たとえば、SNSでの差別的な投稿などによって、理不尽な思いを抱く人たちは少なくありません。こうした風潮に対する一種のカウンターとして、怒りとユーモア感覚をもって、ヒューマニズムを描きたいですね。
―――いつから小説を書き始めましたか。
高校時代です。新人賞に応募するようになったのは大学生になってからです。大学で小説家、額賀澪さんの文芸創作の授業を受けていました。額賀さんは青春小説で松本清張賞を受賞しています。この賞は時代もの、ミステリーというイメージが強いのですが、そうではないエンタメ作品も対象になるんだと思い応募しました。大学では文芸創作のサークルに属しています。
―――選考委員の東山彰良さんが「皮肉とユーモアのセンスがずば抜けていて、これは努力では身につかないものだ」と評しています。波木さんの作風はどのように生まれたのでしょうか。
読書、文章を書くきっかけとなったのは、伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』です。『万事快調』には、さまざまな作品の作風が採り入れられていますが、大好きな小説でもっとも影響を受けたのは、キャシー・アッカーの『血みどろ臓物ハイスクール』です。十代の少女が性と暴力の世界をさまよう話で、凶暴なグループ、売春婦育成などが登場します。これを読んで、小説は何をやってもいいんだということを思わせてくれ、大きな衝撃を受けました。最近では、ジャレット・コベックの『くたばれインターネット』でしょうか。固有名詞をバンバン出し、ユーモアのセンス、ことば選びがとがっており、こういう観点からも小説を書きたいと思いました。