2021年度松本清張賞受賞作は、波木銅さんの『万事快調』に決定した。
【写真】「戦争の時とちっとも変わっていない」と五輪中止を訴える作家はこの人
この作品のテーマは何とも刺激的だ。同書の帯にこう記されている。
「このクソ田舎とおさらばするには金! とにかく金がいる! だったら大麻、育てちゃえ(学校の屋上で)」
ストーリーは、地方都市を舞台に、工業高校に通う女子高生が校内で大麻を育てさまざまな騒動を引き起こすというもので、高校生の犯罪エンターテインメント小説といえよう。学校で大麻栽培という奇抜な発想、魅力的な登場人物のユーモアあふれるかけあい、「こうくるか」といったストーリー展開は、選考委員に大きな衝撃を与え、満場一致で同賞受賞となった。
現在、波木さんは大正大に通う大学4年生だ。
松本清張賞を大学生が受賞したのは、早稲田大の阿部智里さん(2012年)に次いで2人目になる。
なお、大学在学中に文学賞を受賞した作家には、一橋大の石原慎太郎(文學界新人賞と芥川賞 1955年)、武蔵野美術大の村上龍(群像新人文学賞と芥川賞 1976年)、一橋大の田中康夫(文藝賞 1980年)、早稲田大の綿矢りさ(芥川賞 2004年)などがいる(敬称略)。
現役大学生作家である波木銅さんに、どのような思いを込めて『万事快調』を書いたのか、話をうかがった。
―――受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。結果が出るまで緊張のあまりなにも手が付きませんでした。
―――なぜ、女子高生を主人公にして描いたのでしょうか。
女性が社会のさまざまな場面で抑圧され不条理な思いを強いられている状況を打破するようなストーリーを作りたい、連帯、いわゆるシスターフッド的な世界を描きたいと思ったからです。工業高校を舞台としたのは、男子生徒が圧倒的に多い世界であり、いまの男性優位社会の縮図として描くためです。ぼくは工業高校の出身ではありませんが、まわりの友だちから多くの話を聞きました。
―――「不条理」とはどのようなことでしょうか。