よく訊くと、働いていることになっている会社はもともとなかった。ブローカーは架空の会社をつくり、そこで働くことにしてビザをとった。ミャンマー人はそのビザを買う形になる。労働ビザがあるから、勤め先は自分で探す。
ミャンマー人もこのやり方が違法であることを知っていた。そして延長も難しかった。だから「特定活動6カ月」だった。違法性のないビザになる。入管庁に問い合わせた。
「その会社が解雇した証明書があれば、特定活動の申請はできます」
しかし解雇する会社に実体がない。解雇証明をつくることは難しい。同じ相談が日本のなかを飛び交っていた。するとある援助団体から、「解雇証明はつくれなかったといえば入管庁は受け付けてくれる」という情報が入った。
ミャンマー人に正しい滞在資格をとらせてあげたいと思う。しかしそこに分け入ると、日本の滞在資格をとる難解さと、そこに巣くうブローカーの存在に出合ってしまう。そしてクーデター。混乱するばかりだった。
それから2週間。また連絡が入った。ブローカーを通して手にしたビザで働いていたミャンマー人が帰国した。ところがヤンゴンの空港で捕まってしまったのだ。彼は日本でミャンマー国軍に抗議する行動をしていたわけではなかった。
動揺する在日ミャンマー人。帰国が危なくなると、彼らは日本で働くしかなくなってくる。そのなかで彼らは右往左往している。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。