※写真はイメージです (GettyImages)
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繰り下げ・繰り上げ受給の“損益分岐点”(谷内陽一氏作成)※アミかけ部分が、年齢(タテ表で比較)で逆転。名目額では81歳時点で受給開始70歳が60、65歳を上回る。夫婦2人世帯、夫は年金収入のみを想定
繰り下げ・繰り上げ受給の“損益分岐点”(谷内陽一氏作成)※アミかけ部分が、年齢(タテ表で比較)で逆転。名目額では81歳時点で受給開始70歳が60、65歳を上回る。夫婦2人世帯、夫は年金収入のみを想定

 2022年の年金大改正は「70歳現役社会」を目指す流れと一体化して、受給者に年金「繰り下げ」を促す意図が見受けられること、そして、その波に乗る形で公的年金や私的年金、貯蓄など資産を“総動員”して老後を乗り切ろうとする新しい考え方が出てきた。

【表】繰り下げ・繰り上げ受給の“損益分岐点”

 年金は本来、65歳から支給が始まるが、それを66歳以降70歳(来年4月以降は75歳)まで遅らせることができるのが、繰り下げだ。1カ月遅らせるごとに年金額が0.7%増える。ところが現在、繰り下げをしている人は対象者の1%台にとどまっている。果たしてこの先、増えていくのか。

 厚生労働省や専門家らは、繰り下げをする人が増えてくるのは25年度以降とみている。男性は年金を60代前半でもらう人が完全にいなくなり、その年から正真正銘の「65歳支給開始」が始まるからだ。

 人間は、習慣の動物だ。60代前半でいったん年金をもらう習慣が身についてしまうと、65歳でそれを変えにくい。このため、繰り下げする人が増えなかった面もあるだろう。だが“年金まっさら”の65歳なら、挑戦してみようと思う人が増えることは予想される。

 習慣もあるが、判断を左右するのはやはり「実利」だろう。「得をする」と思わないと、人は動かない。繰り下げの是非になると、きまって「累計年金額が逆転するのはいつか」と、その損得ばかりが論じられてきたなかではなおさらである。

 新しい年金受給の考え方「WPP」の提唱者・谷内陽一氏が、「繰り下げ・繰り上げ受給の“損益分岐点”」の一覧表を提供してくれた。

 厚労省のモデル世帯に近い受給者(年金額年間240万円)について、【1】繰り上げて60歳から受給する場合【2】本来の65歳受給開始【3】5年繰り下げて70歳から受給【4】10年繰り下げて75歳から──の四つのケースで年齢ごとの累計額をまとめたものだ。名目額だけでなく、「東京都新宿区在住」を例として計算した「手取り額」でも比べてある。

 会社の給料と同じで年金額も大事なのは、実際に生活に使える手取り額だ。名目の年金額から、税金(所得税、住民税)と社会保険料(国民健康保険料<75歳以降は後期高齢者医療保険料>、介護保険料)を引いて求める。「可処分所得」とも呼ばれる。

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