結果は、手取り額はそれぞれ【1】163万円【2】210万円【3】286万円【4】374万円、となった。繰り下げに絞って損益分岐点をみると、70歳までの繰り下げ(【3】)が本来の65歳からの受給(【2】)を逆転するのは名目額だと81歳だが、手取り額だと83歳で2年遅くなった。同様に、75歳までの繰り下げ(【4】)が65歳受給(【2】)を逆転するのは、名目額で86歳、手取り額では88歳だった。

 2年遅くなるのをどう評価するか。谷内氏は繰り下げ“肯定派”だ。

「2年くらいだったら許容範囲だと思います。判断に迷ったら、『公的年金は長生きに備える保険』という基本原則に立ち返りましょう」

 もちろん、80代になってからの2年を長すぎると考える人もいるだろう。人間、いつ死ぬかは予想できないから悩ましい。

 それはともかく、老齢基礎年金のみの受給者(年金額80万円)について同様の試算をすると、驚きの結果が出た。

 手取り額は【1】55万円【2】74万円【3】107万円【4】140万円だが、【3】も【4】も逆転年齢が名目額と同じだったのだ。つまり、繰り下げしても損益分岐点は遅くならない。

「老齢基礎年金だけだと、住民税の非課税基準や社会保険料の減免基準が適用されるケースが多いから」(谷内氏)との理由だ。しかしこれは、自分の年金のメインが老齢基礎年金となる専業主婦などにとって、繰り下げを選ぶ大きい動機付けとなるかもしれない。

 もう一つ、「税金+社会保険料」は年金額が高くなるほど増えるが、手取り額も同様に高くなることを確認しておきたい。天引き額がいくら大きくなっても、手取り額が逆転することはない。つまり、年金額が増えれば必ず手取りは増える。

 また、複数の専門家が次のように同じ感想を漏らす。

「現役の会社員が昇給する場合と比べてください。『税金や社会保険料が高くなるので、昇給は要りません』とは決して言わないでしょう。ところが、こと年金の話になると、なぜか引かれるほうばかりが注目されてしまうんです」

 いわゆる損得勘定の“ゆがみ”だが、いずれにせよ、ここまで述べてきたことなどを材料にして、繰り下げの判断をすることになる。

週刊朝日  2021年7月9日号より抜粋

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