逆境が思わぬ縁につながった。とはいえ、銚子電鉄は当時も修羅場だった。

 06年11月、会社は前社長の業務上横領などで2億円を超す借金を抱え、補助金が打ち切られ、新規融資も受けられない状況に陥った。そこへ、約5千万円かかる線路や踏切の改修を国に命じられ、3カ月以内に実施できなければ運行停止という事態にまで追い詰められる。1カ月後に迫る電車の法定検査にも1千万円が必要だった。

「社員の給与も労働組合からの借金で工面していた断末魔の状況で、顧問税理士の私は自己破産の申し立て準備に着手していました。そんななか、すがる思いで販売していたのが主力商品のぬれ煎でした」(同)

 銚子電鉄の収支を支えてきたのは売り上げの8割を占める煎餅などの食品事業だ。資金調達のため、社員もぬれ煎餅の「行商」に出ていた。当時、経理課長補佐だった山崎勝哉さんが飛び込み営業から疲れ果てて本社に戻った夜、会社のホームページに投稿した言葉が窮地を救う。

■地域への恩返しのため

「緊急報告 電車運行維持のためにぬれ煎餅を買ってください!! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」

 この悲鳴のような訴えが、ネット上で反響を呼び、ぬれ煎餅の注文が殺到。「鉄道の灯火を守ってほしい」という激励のメッセージとともに、10日間で1万人以上がぬれ煎餅を購入し、危機を乗り越えることができた。

「崖っぷちでの一言が奇跡を呼びました。言葉の力ってすごい、と思いました」

 コロナ禍の運賃収入の低下をカバーしたのもネット販売だ。新型コロナの感染が急拡大した20年4月。1日の運賃収入が4480円しかない日もあった。竹本さんは主力商品の一つ、「まずい棒」の売り上げを伸ばそうと、SNSに「賞味期限まであとわずか。早い者勝ち」と発信することを発案した。

「賞味期限まであとわずかなのに、『早い者勝ち』って矛盾していますが、まずい棒の在庫を何とかしたい一心でした」

 これもネット上で注目を集める。手応えを感じた竹本さんは担当常務と検討の上、すかさずサイトで扱う商品点数を増やし、地元の海産物などの販売も始めた。その結果、19年度の年間売り上げ1千万円に対し、20年度は1億円に膨らんだ。これがコロナ禍を乗り切る支えになった。竹本さんは「ローカル鉄道は地域とともに存在する」ことが原点だと唱える。

「ふざけたことばかりやっているように見えるかもしれませんが、私たちは常に真剣です。存続自体が目的ではなく、存続することで地域に恩返しをするのが私たちの使命だと考えているからこそ、底力を発揮できるのだと思います」

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