人生の岐路にさしかかったとき、言葉の力で解決に向かうこともある。鉄道事業が万年赤字の銚子電鉄の竹本勝紀社長は、何度も言葉に救われてきたという。竹本社長にとっての言葉とは。2022年12月12日号の記事を紹介する。
【写真】かつて崖っぷち経営の危機を救った「ぬれ煎餅」がこちら
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「勇気づけられる言葉を自分の中に取り込むことで、生きる気力が湧いてくることがたびたびありました」
こう振り返るのは千葉県銚子市のローカル線、銚子電鉄の竹本勝紀社長(60)だ。
「電車屋なのに自転車操業」「限界集落ならぬ限界鉄道」。そんな自虐を交えた発信が話題を集める同社の鉄道事業は万年赤字。綱渡りの運営は苦労の連続のはずなのに、どこか楽天的に見えるのはなぜなのか。竹本さんには人生の岐路にさしかかるたび、支えになった言葉がある。
「どんな問題も解決できる。解決できるからこそ自分の身に起きたのだ」
これは医学博士で作家、佐藤富雄さんの著書の一節だ。この言葉に出合ったのは20年前。税理士の仕事に奔走していた当時、顧客どうしのトラブルに巻き込まれ、民事訴訟の被告になった。原告はなじみの顧客。いつも感謝の言葉を口にしてくれていた人から訴えられたのはショックだった。自分を鼓舞する必要に迫られた竹本さんが書店で手に取ったのが佐藤さんの著書だった。
「プラス思考の言葉を口癖のように自分に言い聞かせていれば物事は好転していく、と説く啓発本です」(竹本さん)
コツは言葉の置き換えだという。例えば、「貧乏暇なし」は「退屈知らずの小金持ち」と頭の中で言い換えてみるとよい、と書かれていた。
「普段からそういう習慣が身につけば自ずと楽天家になれる。そう信じています」(同)
■逆境が思わぬ縁に
約2年間続いた裁判は2004年末に和解が成立。それから間もなく、原告側代理人の弁護士から電話がかかってきた。「竹本さんなら、と声をかけさせてもらいました。協力してもらえませんか」。銚子電鉄の顧問税理士への就任を打診してきたこの弁護士は、銚子電鉄の顧問弁護士も務めていた。竹本さんは言う。
「この方は係争相手の私の仕事ぶりを調べ、顧客のために献身的に働く税理士だと思ってくださったようです。被告にならなければ、私が銚子電鉄とかかわることもなかった。人生って本当にわからないものですね」