■大丈夫と言い切れない
板橋区は当初、小学5年生~中学3年生の児童生徒約1万7千人と教職員約1100人が、潮風公園(品川区)で開かれる五輪のビーチバレーや、国立競技場(新宿区)でのパラ陸上などを観戦する予定だった。
「改めて競技会場までの移動や競技会場でのコロナや熱中症対策を考えたとき、『大丈夫』と言い切れないところがありました。児童生徒たちと引率する教職員の安全を最優先に考え、決断しました。保護者からは、決断について感謝の声をいただいています」(区教委担当者)
千葉県も購入予定だった学校連携観戦チケット約10万5千枚のうち、約5万枚の購入をとりやめることにした。埼玉県も、約8万7千枚のチケットのうち約76%がキャンセルになったと発表した。神奈川県では2月時点で25市町村が学校連携観戦プログラムに参加する予定だったが、6月23日時点で9市町村に減ったという。
■ICTの活用も一案
名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)は学校連携観戦プログラムには・熱中症・コロナへの感染・教員の過重負担──の三つの重大リスクがあると警鐘を鳴らす。
「特に教員の過重負担は心配です。教員は通常の校外学習を行うだけでも大変。そこに熱中症とコロナ感染のリスク回避の負担が追加的にのしかかってきて、相当な負担になります。長時間労働の解消が喫緊の課題である教員の働き方の観点から、子どもの観戦計画をとりやめるべきだと考えます」
実際、都内で勤務する50代の中学校教員はこう訴える。
「引率を断れば他の先生が行くことになり、断りづらい。しかも、混雑を避けるため競技会場のある一つ手前の駅から歩かねばならず、その後、競技場で2時間待ちの手荷物検査があり、そこから一番遠いゲートまで歩きます。感染のリスク以上に、真夏炎天下の引率で生徒の健康面、安全面が心配です」
内田准教授はリスクをなくす案として、タブレットなどデジタル端末を使ったICT(情報通信技術)の活用を提案する。
「今、多くの小中学生に1人1台、タブレットなどが配られています。そこで、子どもたちは冷房の利いた家でタブレットで観戦して、オンラインで選手と会話などができるようにする。そうすれば、テレビで見るだけとは違った感覚を得られ、三つのリスクを全部解決できます。こうした工夫をすることがコロナ禍の子どもの五輪観戦で大人がやるべきことだと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年7月12日号
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