「(陛下が)オリンピック・パラリンピックの開催が(新型コロナウイルスの)感染拡大につながらないかご懸念されている」
驚いた記者から「かなり影響がある(発言)と思うが、そのまま発信していいか」と問われると、「はい、オン(公式発言)だと認識しています」ときっぱり言い切った。ある宮内庁関係者は「発言は事前に官邸に知らされることはなかったと聞いています」としたうえで、「西村長官は紙を用意して発言しており、事前に準備してきたのは間違いない。当然、陛下のご意思も確認した上でのことでしょう」と推測した。
この「拝察」発言に至るまでの経緯について、見落とせないのが2日前の22日、菅首相による陛下への「内奏」だ。「内奏」とは、国務大臣が陛下に国政報告などを行う行為で、内容は一切表に出ることはない。
しかし時節柄、東京五輪の準備状況などについて報告したのではないかと言われている。東京五輪の開催によって感染爆発が起きるのではないかと懸念されるなか、「安心・安全な大会にする」とばかりを繰り返し、何ら具体的な対応を示さない菅首相が、陛下に対しても同じ説明をしたことは想像に難くない。
前出の宮内庁関係者は、菅首相による五輪対応への不信感が背景にあるとの見方を示し「陛下は以前から新型コロナの感染拡大を非常に憂慮されている。首相の話を聞いて、このままでは危ういと思い、長官発言という形で釘を刺したのではないか」と述べた。
前出の政府関係者はため息交じりにこう話した。
「今回の件で、五輪を巡って宮内庁と官邸との距離が露見してしまった。今後の感染状況次第では、陛下が開会式に出席されずに、オンラインで開会宣言を発するなど、さまざまな可能性がある」
さまざまな問題を抱えながらも、五輪開催へと突き進む菅首相。感染拡大を懸念される陛下の純粋な思いが届く日は来るのだろうか。
(渡部俊輔)