「汚いミュージカルをやろう」という会話から生まれた「衛生」が東京で始まる。主演の古田新太に舞台に込めた思いを聞いた。AERA 2021年7月12日号に掲載された記事を紹介する。
【写真】高度経済成長期真っ只中の日本はこんなにも昭和がみなぎっていた!
* * *
「汚いミュージカルをやろう」
俳優の古田新太が主演を務めるミュージカル「衛生」の企画は、そんな会話から生まれた。
「以前、出演した舞台の脚本を手掛けた福原充則君が、古田さん主演で演出をやりたい、と言ってくれました。それなら音楽劇、しかも下ネタだな、と。でもセックスの話はすでに扱っていたから『だったらウンコ、おしっこか?』と(笑)。そんなとき、『汲み取り屋さんの話って面白いですよ』とアイデアをくれたんです」
■戦後の汲み取り業
古田が演じるのは、し尿を汲み取り、肥料として扱う「諸星衛生」の社長。し尿の汲み取り業は、戦後に急速に発達するも、下水道の普及により凋落する。物語の舞台は昭和33年、高度経済成長期に入る前の時代だ。当時の資料を読み進めると、その時代特有の空気感に魅せられていった。
「敗戦国から“先進国”になろうとしている時代、みなバイタリティーにあふれていた。そのなかには当然、生きていくために悪いことをする人びともいた」
利益を上げるため、ともに悪事を働く息子を演じるのは、歌舞伎役者の尾上右近だ。宝塚歌劇団出身の咲妃みゆも、キャストに名を連ねる。
「彼らのファンは怒るかな、でも怒ってもいいと思うし、怒らせたい」と笑う。
これまでも、バックグラウンドの異なる役者たちと積極的に組み、舞台をつくり上げてきた。彼らはみな、古田との仕事に新鮮味を感じ、喜んで参加してくれた。古田もまた、表現のベースが異なる彼らから学ぶことは多いと感じている。
たとえば、相手に睨みを利かせるシーン。
「おいらたちインディーズの人間は、ガンつけるというと、つい下から睨みあげてしまうけれど、歌舞伎役者たちはガンつける時でも姿勢が良く、上から見下(くだ)すような睨み方をする。確かに、見下した方が強く見える時がある。所作一つとっても違うから、“出自”の違う人たちとの仕事は楽しいし、勉強になります」