コロナ禍が広まって以来、舞台稽古はすべてマスクをつけて行っている。「非常に不健康な状態」と古田は言う。

「相手が笑っているのか、苦虫を噛み潰したような顔をしているのかわからないまま稽古をしているわけです。もう、『表現』という言葉を使ってはいけないという気さえしています。本番でマスクを取って芝居すると『そんな表情をしていたの?』ともなりかねないですから」

 昨年、舞台の無観客生配信を行った際は、誰も笑わない劇場でギャグを飛ばし続けた。自分はいかに“不要不急な仕事”をしてきたのかと思い知らされ、無力感を覚えたという。だが、心が疲弊しているからといって、「ただ明るくポジティブなものが観たい」という流れに乗るのはつまらないとも思う。

「みながみな優しい人になる必要はないと思うし、ピカレスクロマン(悪者小説)と呼ばれるものもありますよね。実際、バットマンよりも、悪役のジョーカーが好きだという人もいると思いますし(笑)」

■先人は生きるのに必死

 脚本、演出を務める福原がある日思いついたという、舞台のタイトル「衛生」は、様々な意味合いを含み、いまの時代を絶妙に表現している。

「先人たちは、こんなにも勢いがあって、生きるのに必死だったんだから、いまの日本ももっと色々なことに張り切っていい。頑張ることがダサいと言われると腹が立つんです。頑張ることくらいしかできないのに。『日本、元気を出そうよ』という思いが伝わればいいな、という気持ちがどこかにありますね」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2021年7月12日号

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