■何故名前は「クサビマンボウ」ではないのか?

 マンボウ、ウシマンボウ、カクレマンボウ、ヤリマンボウ、そしてクサビフグ。マンボウ科魚類の名前はクサビフグ以外みんな「マンボウ」と付くのに、何故クサビフグだけクサビマンボウとならなかったのか? 疑問に思った私は、クサビフグの名前の歴史を調べたことがある。

 クサビフグは1913年に東京帝国大学の田中茂穂教授らの研究チームによって命名された。この時、クサビフグはマンボウ科に属することが明示されているにも関わらず、何故かクサビマンボウとは命名されず、また論文には名前の由来も書かれなかった。

 1933年、命名者の田中教授が書いた本に、「体全体が楔型をしているから」とクサビフグの名前の由来が書かれるも、何故フグという名を当てたのかについては触れられていなかった。そして、1934年、田中教授は突如名前をクサビマンボウに変更して本に書いた。以降、1954年まで魚類の本の中でクサビフグとクサビマンボウの名前が混在する時代が続くが、1955年以降はクサビフグに統一されたようで、クサビマンボウという名は使われなくなった。

 この歴史的な流れを見ると、田中教授は名前を途中からクサビマンボウに変えようとしたが、それができなかったという思いが伝わってくる。この記事を読まれた読者の方は是非覚えておいて欲しい。クサビフグはフグ科ではなく、マンボウ科の仲間だと。

【主な参考文献】 
 Nyegaard M, Loneragan N, Santos MB. 2017. Squid predation by slender sunfish Ranzania laevis (Molidae). Journal of Fish Biology, 90: 2480-2487.
 野口みな子.2020.謎多き「手のひらサイズのマンボウ」 本名クサビフグの知られざる歴史.withnews.2020年6月24日配信.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やyoutubeで情報発信・収集しつつ、無職で自分に合った仕事を探しながらもなんとかマンボウ研究して生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。

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