「『キャプテン翼』や『巨人の星』のような必殺技で勝つスタイルではなく、等身大の高校生によるリアルなプレイと日常だからこそ身近に感じる」
誰もが自分を投影させることができる登場人物を見つけられたことが、人気の一因だという。村上さん自身は、湘北の「メガネ君」こと木暮公延が「推し」だ。
「目立たないけれど、誠意にあふれ、重要な場面のキーパーソンになる。ヒーローにならなくていい。メガネ君のようになりたいと思ってきました」(村上さん)
指導者たちに与えた影響も大きい。76年のモントリオール五輪日本代表で、江戸川大学の北原憲彦名誉教授(スポーツ指導者論)は、88年に現役を引退。指導者の道へ進んでから、スラムダンクの連載が始まった。
「あきらめたらそこで試合終了だよ」の名言で知られる湘北の安西光義監督について、
「当時は、厳しい師弟関係が主流だった時代。私も時として選手にオーバーコーチングをしては反省する日々でした。安西先生のように大きな心で『待つ』指導は、未来への指針に感じた」(北原名誉教授)
96年、連載は唐突に終了する。だが、人気は一向に衰えず、コミックスは2004年に累計発行部数1億部を突破。今も売れ続けている。スラムダンクが起こしたバスケットボールブームは日本に根付き、16年には、プロのBリーグが始動した。
■期待感が伝説化に拍車
近畿大学講師で、日本近代文学や映画、漫画などを教育社会学の観点から研究している椎名健人さんは、
「シュートの練習を2万本してきた桜木花道が、試合で流川のシュートを見て、初めてすごさに気づいた場面など、心の動きの描写が非常に丁寧。教育面の示唆に富んでいることはもちろん、ビジネスにも通じる要素が見いだされるなど、需要が多方面に及んでいる。続きを自由に想像しながら、いつか戻ってきてくれるという期待感が、伝説化に拍車をかけ、評価を高めてきた」
と解説する。