人はなぜ、SNSで「いいね」を強く求めるのか。やはり「自己承認」がカギだと語るのは、筑波大学教授で社会学者の土井隆義さん(60)だ。
「人間は何かに承認されないと生きていけません。それは社会的動物たるゆえんでもある。何かに承認されることで、昔から心の安定を保ってきたんです」
古くは神や、聖なる存在を。近代以降は「理念、理想、信条」を信じて人は生きてきた。それらを信じて動けるということは、逆に言えばその信じているものに承認されているということだと、土井さんは言う。
「これら社会的普遍性のある『抽象的な他者』は、自分でコントロールできない『超越的な存在』。だからこそ、そこからの承認には圧倒的な安定感と安心感がありました。現代はそれらの優位性や超越性は薄れましたが、例えば親や学校の先生、先輩ら自分がモデルとする『個別具体的な他者』からの承認も、自分と『対等』ではありません。そういった他者から拒否をされると、私たちは生きていけませんから超越性はあり、その承認には同じく安心感と重みがある。でも、SNSの世界は違います」
■「切れる」関係だけに
SNSでは社長も学生も対等で等価な存在だ。皆がフラットな、自分からいつでもその関係を「切れる」場合が多い。そういう人からの承認は、超越的な存在からの承認と比べ重みがなく、「いいね」をもらっても心の安定につながりにくい。
「承認の質の劣化を何でカバーするか。数しかありません。たくさんの『いいね』を求めないと安心できず、でも一個一個の『いいね』は承認として軽い。どこまでいっても自分の安心感につながらない。常に『いいね』をもらうことに煽(あお)られ、疲れていくんです」(土井さん)
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2021年7月12日号より抜粋