塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の経口薬「ゾコーバ」(photo 塩野義製薬提供)

■「5類」への変更検討

 そもそも政府は、ゾコーバの対象となるような重症化リスクの低い人に対しては、発熱外来などの医療機関を受診しないよう呼びかけてきた。新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行などの場合に、発熱外来などがパンクして、重症化リスクの高い人が受診できないような事態になるのを避けるためだ。

 政府は、重症化リスクの低い人が発熱など感染の疑われる症状が出た場合には、自分で抗原定性検査キットで検査し、陽性という結果が出たら、自治体の健康フォローアップセンターに登録して自宅療養するよう、求めている。

 しかし、ゾコーバを処方してもらうには、医療機関を受診する必要がある。このため、リスクの低い人の受診が増える可能性がある。

 このような懸念の声がある中で、政府が検討を本格化させたのは、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけの見直しだ。加藤勝信厚労相は11月29日、閣議後の記者会見で、早期に議論を進めると表明した。

 現在、「新型インフルエンザ等感染症」に属し、結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)が属する2類よりも強い対策がとられている。それを、季節性インフルエンザと同等の「5類」にすることを検討する。5類になれば、発熱外来ではなくても、どの医療機関でも診療でき、診療の担い手が増えると期待される。また、治療費は、公的医療保険の範囲で自己負担が求められるようになる。

 ゾコーバが治療薬の選択肢に加わったこと自体については、評価する声が少なくない。軽症、中等症といった分類は、肺炎の有無など呼吸機能の状態で判断され、高熱や倦怠感といった感染者本人が感じるつらさとは必ずしも一致しないからだ。

■後遺症予防の可能性

「高熱などでつらい思いをする人にとっては、症状が少しでも早く和らぐのはメリットかもしれません。ただ、ゾコーバは比較的軽症の人に投与するので、解熱剤でも症状は改善するかもしれません。どんな人にゾコーバを処方するのかは難しい判断になると思います」

 本大学医学部血液・膠原病・感染症内科の松岡雅雄教授(ウイルス学)はこう指摘する。松岡教授が注目するのは、ウイルス量の減少だ。

「軽症の人でも、いわゆる『Long COVID』と呼ばれる、長い間、後遺症に悩まされる人がいます。体内のウイルス量を大きく減らすことができれば、後遺症の予防に役立つかもしれません。製薬企業には市販後調査で、その点もぜひ調べてもらいたいですね」

(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2022年12月12日号より抜粋

[AERA最新号はこちら]