
重症化リスクの低い軽症の人に使える飲み薬「エンシトレルビル フマル酸(販売名・ゾコーバ)」が緊急承認された。日本の製薬企業が開発した初の新型コロナウイルス感染症治療薬だ。一方で、効果や必要性については疑問の声も上がる。 2022年12月12日号から。
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ゾコーバは、重症化を防ぐ効果は認められていない。既存の軽症や中等症Iの人を対象とした経口薬とは、服用対象以外にその点も異なる。
既存の経口薬、ファイザー社の「ニルマトレルビル/リトナビル(販売名・パキロビッド)」もメルク社の「モルヌピラビル(同ラゲブリオ)」も、入院が必要になるほどの重症化や死亡を防ぐ効果が臨床試験で確認されている。パキロビッドは89%、ラゲブリオは48%、重症化を防ぐ効果がみられた。
このため、日本感染症学会は、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」で、重症化リスクのある感染者に対しては、ゾコーバではなく、パキロビッドやラゲブリオによる治療を検討するべきである、としている。同学会がもう一種類、リスクの高い軽症・中等症Iの患者の治療薬として挙げるのは、点滴薬のレムデシビル(販売名・ベクルリー)だ。
軽症・中等症I対象の薬には、これら以外に点滴や注射で投与する薬が3種類あるが、いずれもオミクロン株BA.5系統に対しては効果が減弱するため、他の治療の選択肢がない場合のみの使用とされている。
結局、ゾコーバ服用の対象となるのは軽症か中等症Iで、かつ重症化リスクの低い人になる。
もともと重症化リスクが低い場合、解熱剤など症状を和らげる薬を飲んで休養していれば、自然に回復する人が少なくない。現状では、新型コロナウイルス感染症の治療薬は全額が公費負担で、国民の税金から支払われている。症状が消える期間を1日短くする程度の効果の薬を公費負担することには疑問の声も上がっている。
また、医師からは、発熱外来の混雑を心配する声も出ている。