線状降水帯による大雨で、今年も各地で河川の氾濫や土砂災害が起きている。写真は、増水した川内川(せんだいがわ)の下流/7月10日、鹿児島県薩摩川内市 (c)朝日新聞社
線状降水帯による大雨で、今年も各地で河川の氾濫や土砂災害が起きている。写真は、増水した川内川(せんだいがわ)の下流/7月10日、鹿児島県薩摩川内市 (c)朝日新聞社
観測機器「ドロップゾンデ」。長さ約30センチ。これを航空機から複数個投下し、観測に用いる。ボディは、生分解性素材。明星電気製(写真:坪木和久教授提供)
観測機器「ドロップゾンデ」。長さ約30センチ。これを航空機から複数個投下し、観測に用いる。ボディは、生分解性素材。明星電気製(写真:坪木和久教授提供)
下甑島に設置された「水蒸気ライダー」。コンテナのサイズは長さ3.7、幅2、高さ2.3メートル。中に、望遠鏡や検出器などが格納されている(写真:白石浩一助教提供)
下甑島に設置された「水蒸気ライダー」。コンテナのサイズは長さ3.7、幅2、高さ2.3メートル。中に、望遠鏡や検出器などが格納されている(写真:白石浩一助教提供)

 今や、毎年のように耳にする「線状降水帯」。だが、「いつ」「どこで」発生するのか、正確な予測は困難だという。AERA 2021年7月26日号から。

【写真】観測機器「ドロップゾンデ」と下甑島に設置された「水蒸気ライダー」

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「工場の裏山が崩れた。人が生き埋めになったかもしれない」

 7月8日午後3時前、鳥取県倉吉市の警察と消防に、緊張した声で通報があった。

 現場は、金属メーカーの工場裏。高さ40メートル近い山の斜面が崩れ、鉄筋づくりの同工場の1棟を直撃。建物内にいた男性従業員3人が巻き込まれた。大惨事になりかねなかったが、幸いこのうち2人は自力で脱出し、残る1人も土砂に埋まったが消防などによって救出された。

 倉吉市では前日7日から非常に激しい雨が続いた。土砂崩れが起きた当日は、午後3時40分までの3時間で117ミリの雨が降り、記録が残る1977年以降で観測史上最大となった。

「鳥取でここまでの大雨ははじめて」

 倉吉市役所の担当者は、驚きを隠せない。

 今回の大雨の原因を、鳥取地方気象台の担当者はこう言う。

「梅雨前線の停滞で、その前線に向かって南から湿った空気が入りこみ、線状降水帯ができたためです」

 線状降水帯──。大雨による被害が起きる度に、この言葉を聞くようになった。その名の通り、いくつもの積乱雲が線状に分布し数時間にわたり同じ場所に激しい雨を降らせる気象現象のことだ。7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流で10人以上が死亡した豪雨をもたらしたのも、同9日から10日にかけ九州南部で記録的な大雨を降らせたのも、線状降水帯だった。他にも毎年のように、線状降水帯による甚大な被害は各地で起きている。

■床上浸水か土砂災害

 線状降水帯は、古くて新しい気象現象だ。

 90年代から知られていたが、土砂災害で災害関連死を含む77人の死者を出した2014年8月の広島豪雨で注目され、そのころから使われるようになった。

 地球温暖化の影響で、海面から蒸発する水蒸気の量が増えるほど、発生する確率は高まる。気象庁によれば、5キロ四方の3時間の雨量が100ミリ以上あるなどの基準を満たした「線状降水帯」に関する情報は、年10~20回近く発表している。そして、線状降水帯が発生した場合、80%近い確率で床上浸水か土砂災害が発生するという。発生場所は九州地方に多いが、「日本中どこでも発生しうる」(専門家)。

 だが、厄介なのは、これだけ頻繁に発生しているにもかかわらず、いつ、どこで発生するか正確な予測が困難なことだ。気象庁の担当者ですら、事前の発生予測は「現状では限界がある」と認める。なぜか。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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