気象情報会社「ウェザーマップ」に所属する気象予報士の片山由紀子さんは、理由をこう語る。

「線状降水帯は、いくつもの積乱雲が複数集まり、50キロから200キロの積乱雲群をつくります。しかし、一つの積乱雲の大きさは5キロから15キロと小さく、しかも同じ場所で発生するとは限りません。そのため、進路や規模が予想できる台風と比べ、予測が難しい現象です」

 名古屋大学の坪木和久教授(気象学)は、予測困難の大きな理由として二つ考えられると話す。

「まず、線状降水帯の時空間スケールが小さいこと。これが大きな問題です」

■低空で急激に発生

 線状降水帯は、小規模の風のぶつかり合いで急激に発生する。空間的には、線状降水帯は50~200キロにわたるとはいえ、直径1千キロにもなる台風と比べると極めて小さい。そのため、発生の予測が困難だという。

「二つ目は、豪雨をもたらす水蒸気が海上から流れ込む点です。線状降水帯のもとになる水蒸気は、海に囲まれた日本ではほとんどすべて海上から流れ込みます。しかし、水蒸気は海面から高さ1キロから3キロより下層にほとんどが存在し、気象衛星で低空の水蒸気量を計測すると、どうしても精度が低くなります」

 精度を高めるにはどうすればいいのか。

 カギを握るのが、「水蒸気の正確なデータ」と「数値予報モデルの解像度の上昇」だ。数値予報モデルとは、スーパーコンピューターで天気予報を行う計算手順プログラムをいう。

 坪木教授は言う。

「この二つの条件が満たされれば、線状降水帯の予測精度は格段に上がります」

 そこで今、坪木教授が進めているのが飛行機を使った観測だ。

■ドロップゾンデで計測

 水蒸気が存在する海上でデータを集めることで、その量を正確に捉え、線状降水帯の数値予報の精度を上げようというのだ。

「ドロップゾンデ」と呼ばれる長さ30センチほどの筒状の観測機器を小型機で運び、上空10キロ近くから複数個投下していく。機器が海に着水するまでの約15分間、気温、湿度、気圧、風向、風速などを計測し、リアルタイムで小型機内の受信機に送信し、大気中の水蒸気量を割り出す。

「水蒸気の立体的分布が、高精度でわかります」(坪木教授)

 坪木教授は17年、台風を対象に航空機観測を始めた。翌18年にも台風の「目」に入りドロップゾンデを合計64個投下、集めたデータが気象庁の台風予報にも役立てられた。今回の計画は、その応用で目に見えない水蒸気を正確に捉えるのだという。

次のページ