ヒコロヒーは、あくまでも笑いを取るための手段としてその題材を選んだだけだと振り返っているが、社会的な関心事であるジェンダー問題に堂々と斬り込んだように見える内容だったため、お笑いファン以外の幅広い層から注目された。

 このあたりからじわじわとヒコロヒーのキャラクターや芸風が脚光を浴びるようになり、ネタ番組、トーク番組、ドラマなど、幅広いジャンルの番組に出演するようになった。

 ヒコロヒーはもともとネタの面白さに定評のある芸人だった。言葉のセンスや着眼点に独特のものがあり、どの芸人とも似ていない。持ちネタの中には、彼女が日常で感じている怒りや不満がベースになっているものが多い。それ以外のネタでも、ヒコロヒーならではの偏見や皮肉っぽいモノの見方が垣間見える。

 ヒコロヒーの芸風を一言で言うと「シャバ僧ハンター」である。「シャバ僧(しゃばぞう)」とは一昔前のヤンキー用語で「シャバい人」のこと。「シャバい」とは「さえない・臆病だ・みっともない」というような意味である。ヒコロヒーは平成生まれの女性でありながら「シャバい」という言葉を当たり前のように使いこなし、「シャバ僧」を決して許さない。

 自分の中に「こういうやつはシャバい」という明確な基準があり、あらゆる表現がそれを軸にして展開される。だからこそ、ヒコロヒーの芸には揺るぎない一貫性がある。漫才、ピン芸、トーク、演技、執筆業など、どんな分野の仕事をしていても見せる顔は同じ。自然体を超えた超自然体。そこが新しくて面白い。

 ヒコロヒーには派手な一発ギャグもわかりやすいキャラも必要ない。もちろん特定の思想やメッセージも要らない。初の冠番組であるはずの『キョコロヒー』でも普段と変わらない落ち着きを保つ彼女は、シャバい世の中に活を入れる現代の救世主となるかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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