■保護者の付き添いという課題

 かなりの沈黙が続いた後、こんな答えが返ってきました。

「すごく難しい問題です。まずは私たちがゆうちゃんにもっと慣れて、今日の体調はどうかな? 顔色はどうかな? とひと目でわかるようになるまでは、焦らずにおうちの方に付き添ってもらって、一緒に見守って下さればと思います。巡回診療も月に1度しかないですし、焦らずに」

 この学校には、そう言われてから、年単位で付き添うことになったり、訪問学級に転籍したお子さんが複数います。もちろん、一定期間の付き添いは当然と思っていましたが、我が家にはもうひとり足が不自由な息子もおり、長期間長女に付きっきりになるのは難しい環境でした。

 またしても沈黙になってしまいましたが、ここで初めて校長先生が話し出しました。

「今回のお話はまだ前例がなく、僕たちもどのように進めていくのがゆうさんのためなのかを真剣に考えなくてはなりません。医療的ケアは個別事案としてさまざまな対応になるので、これからしっかり話し合っていきましょう」

■前例ができれば

 結局、この日に結論は出ませんでした。まずは校医と主治医が密に連携していくことと、どのように安心安全と合理的配慮を絡めていくのかを、今後も継続して議論していくことになりました。

 前例ができれば、他のママたちの負担軽減につながるかもしれず、ここで終わらせてはならないと強く思いました。

 会議の最初は硬い表情だった看護師さんたちが、後半にはとても穏やかな雰囲気で話していたことも印象的でした。

 帰り際、担任の先生からクラスで育てているというプチトマトとバジルをいただきました。

「えりかわさんがおっしゃった、ゆうちゃんだけでなく他の子の環境も変わるかもしれない、という言葉を聞いて、絶対協力したいと思いました。体制が変わっていくようにみんなで頑張りますね」

 制度を作るのも変えるのも、感情のある人間です。連絡帳やTELだけでは伝わらなかった部分が、対面で話せたことによって、確実に進んだ気がしました。

 医療的ケアはハードルが高いと思われがちですが、実際にはそんなことはありません。

 その後、数回の会議を経て酸素導入が決まりました。今ではごく当たり前に、娘の学校用車椅子の下には酸素ボンベがあり、状況に応じて看護師さん全員が酸素を扱うことができます。医療的ケア児の単独通学への理解が広がっていくことを願っています。

〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ

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