「あの世」にいる、なんだかおそろしげな存在――そんな感じ。

 あらためて知ろうとすれば、現代に至るまで日本人の心に生き残り続けてきた理由、また十王(じゅうおう)の中でなぜ閻魔王だけがこれほどの存在感を放っているのか――などと、次々と疑問が湧いてくる。

 そこで本コラムでは、閻魔王をはじめとする冥界(めいかい)の10人の王(十王)や、その下で働く冥途(めいど)の官僚である冥官、そして亡者に罰を下す現場で働く獄卒など、地獄をめぐる主な登場人物と、彼らの役割について、仏典や説話を中心に繙(ひもと)いてみたいと思う。

 するとそこには不思議と人間味あふれる「地獄」で働く役人たちの様子がほの見えてくる。

■閻魔王は何者か

 まずそもそも、閻魔王とはいったい何者なのか? 平安時代末期から日本で信仰されてきた経典「十王経(じゅうおうきょう)」によれば、彼は「あの世」を司る10人の王の1人だという。この10人の王こそ「十王」と呼ばれ、深い信仰を集めてきた。なぜなら彼らが亡者を裁き、その罪の深さに応じた罰を定めると考えられてきたからだ。もちろん、この10人の王による裁判で最も重い判決こそ「堕地獄(だじごく)」で、罪の重い亡者ほど地獄の下層へと送られることになる。

 つまり、慣用句的に「地獄の閻魔様」と呼ぶことも多いが、実は罪の深さを裁く閻魔王がいるのは地獄の手前ということになる(この世界を「あの世」と「この世」の境目として「中陰(ちゅういん)」や「中有(ちゅうう)」と呼ぶ)。

 もっとも、『往生要集』では、閻魔王は地獄の中にいることになっているし、説話集でも閻魔王が地獄にいるような描写が散見される。このあたりの理解はかなり曖昧だ。むしろ十王の中で最も代表的な存在の閻魔王だからこそ、堕地獄の判決を下す存在として地獄のイメージと強く結びつけられた結果、描写が揺れることになったのだろう。

 先にも述べたが、そもそも10人もの王がいるなかで、なぜ閻魔王のみがこれほど注目されたのか。その理由は、彼の存在の起源を遡(さかのぼ)ることによって、いくらか明らかになる。

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