緊急事態宣言下で開催される東京五輪。その足元には、命を削るように生きる人たちがいる。AERA 2021年8月9日号で取材した。
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7月23日午後。東京五輪の開幕を祝うアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が、東京都庁の上空を通過した。スマホを構えた人々が歓声を上げた。
「僕とは、違う世界でした」
男性(30)は静かに言う。都庁近くの路上で、3カ月前から寝泊まりする。
関東地方の出身で、千葉県内の工場でアルバイトとして働いていた。しかし、コロナ禍で仕事が減り収入が落ち込み、家賃4万円が払えなくなった。
もうダメだ──。
頼れる人もなく路上生活者になった。新宿に来たのは、支援団体が配給する弁当をもらえるとネットで知ったから。
■生きるか死ぬか瀬戸際
寝床は、500円で買ったという毛布が1枚。壁や屋根もなく、幹線道路沿いなので夜は車の音で熟睡できないこともある。
数千円の現金とわずかな荷物が全財産。近くの公園の水道で体を洗い、猛暑が続くが我慢する。都庁は冷房が利いているが、追い出される心配があるので行かないのだという。
コロナ禍での路上生活。男性はマスクをつけているが、ワクチンは副反応が心配なので打たないと話した。
「かかったら、その時はその時。先は見えません」
毎週土曜に都庁前で食料食事支援や相談会を行うNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長の大西連(れん)さん(34)によれば、コロナ禍以降、毎回300人近くが配給の弁当を求めて列をつくるという。
「日雇いや派遣など不安定な働き方をしていた方が圧倒的に増えています。貧困層が広がり、深刻な状況。国は手当てを万全にすべきで、五輪をやっている場合ではないと思います」
新型コロナの感染が拡大する中で東京五輪が開幕した。日本勢のメダルラッシュが続き、選手らが躍動する。しかしその足元で、命を削るように生きる人たちがいる。
「生きるか死ぬかの瀬戸際です」
都内で飲食店を経営する男性(48)は、怒りを隠せない。