経済学者で高知大学准教授の塩原俊彦さんは、ワクチンパスポートに期待する一方で、次の点を不安視する。
「コロナ禍で、国内では少数意見を認めない同調圧力が高まっています。接種しない人を排除するという考え方が広まらないよう、ルール作りと併せて啓発活動はしっかりやっていただきたい」
未接種の人への対応について、熊野さんはこんなアイデアを挙げる。
「病気などの理由で接種できない人に不利益がないよう、専用の証明書を発行し、接種した人と同じ扱いにするという方法が考えられます」
課題の二つめは、国民のワクチン接種率がどの程度になったら開始するかという点だ。どのくらいの接種率で施行するのか、具体的な見通しを示す必要はあるだろう。
三つめは医療面の課題だ。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広さんは、「日本で接種が進む二つのワクチンには重症化や発症を予防する効果はあるが、感染予防効果はあやしい」と話す。
それを裏付ける発表が先日、報告された。ファイザー製のワクチンの感染予防効果は64%から39%に下がったことを、ワクチン先進国のイスラエルが明らかにしたのだ。
「デルタ株の流行拡大が関係していると考えられます。五輪でも、IOCは8割以上の選手や関係者にワクチン接種を終えたと示しましたが、陽性者がけっこう出ています」(上さん)
そうなると、ワクチンパスポートの前提が崩れてしまう。
「国はまず国内におけるワクチンの予防効果についてエビデンスを出すこと。それに基づいて議論をしないと始まりません。いきなりワクチンパスポートを始めれば、それを発端に感染が広がる可能性もあります」(同)
ワクチンパスポートは経済回復の起爆剤になるか。“Go To”と同じ失敗は繰り返さないでほしい。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2021年8月13日号