「沈黙は過激政党を支持しているのと同じなのです。人権が軽視され、差別がまた起こらないためにこの作品を作った」

 監督が心がけたのは「虐(しいた)げられている人々に寄り添う演出」だった。

 映画ラストには世界で存在感を増すポピュリストの演説映像が入っているが、そこにひりひりした危機感が象徴されている。

『アウシュヴィッツ・レポート』はスロバキアで公開されるや、コロナ禍のロックダウンで1週間で終わってしまった。「9月の再公開までにコロナが収まって欲しい」とベブヤク監督は願う。

「この作品こそ、政治世界に関する『現代のレポート』だ」と告げると、「嬉しい」と監督が微笑んだ。「過去を忘れてはいけない。僕の映画はそのためのレポートなのです」

 この作品は本年度アカデミー賞国際長編映画賞のスロバキア代表に選出された。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年8月13日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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