まず、6時間前にPCR検査をして陰性なら試合に出てもいい、という判断が、科学的には根拠がない、という点です。
感染初期は体内のウイルス量が少ないため、PCR検査をしても陰性になることがあります。南ア選手が万が一感染していても、感染時期がわからなければ、いつPCR検査で陽性になり始めるのかはわからず、6時間前に陰性だったからといって、感染していないという証明には科学的にはなりません。
一方、国内の濃厚接触者は14日間隔離、という規則は科学的な根拠に基づいています。14日間ずっと陰性で、その後に感染が判明することはほぼないからです。
2点目の問題は、IOCや大会組織委員会が、日本の規則とは異なる、「五輪特例」ルールをなし崩し的に作ったという点です。こんなことをしたら、国内の濃厚接触者の中で、「14日間の隔離」を無視する人が増えても仕方ないです。
非科学的な判断をし、科学的な判断に基づく規則が守られなくなる。これはまさに、「無理を通せば道理がひっこむ」という状況にほかなりません。
3点目の問題は、濃厚接触者のルールが事前に作ってあったのではなく、南アのチームで大勢の濃厚接触者が出た後に作られたという点です。物事の途中でルールを自分に有利になるよう変更する行動を、「ゴールポストを動かす」と言いますが、まさにそんな対応です。
いくら選手をなるべく大勢出場させたいとは言え、感染対策でもスポーツでも許される行為ではありません。
■DPと同じ過ちを繰り返さない
――五輪の選手や関係者らの感染が、いつ、どのような経路で起きたのか、「バブル」と呼ばれる、五輪関係者の内部だけにとどまっているのか、実態は不明だ。
大会組織委員会は感染の詳細を公表せず、感染者数しか発表していません。これは、感染対策に問題があり、乗船客の間でアウトブレークが起きた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス(DP)号の時と同じです。
大会開催期間中に起きた感染の根本原因の調査が必要です。どこでどのような状況で感染が起き、それは防ぎ得たのか、といった分析です。不可避な感染はあるので、感染をゼロにしろと言っているのではありません。約400人の感染は、不可避で、許容できる感染なのか。それとも、対策に漏れがあったのか。
そういった分析を、DP号の時のように関係者で行って「それなりにうまくいっていた」でしゃんしゃんで終わらせてはだめです。第三者により、客観的に行うべきです。
ただし、スピードも大切です。パラリンピックを開くならその前に分析し、その結果をパラリンピックの感染対策にいかすべきです。
また、解析結果をきちんと公表することも大切です。そうしないと、五輪・パラリンピック開催にますます反感が強まるだけです。
※インタビューは8月2日に行い、その後、感染状況などをアップデートしています
(構成/科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERAオンライン限定記事