安部若菜さん(撮影・小黒冴夏)
安部若菜さん(撮影・小黒冴夏)

 当たり前かもしれないが、小説内で描かれるアイドル現場の描写、メイクや衣装のちょっとしたディティールや楽屋でのメンバーどうしのやりとりなどは、現役アイドルならではの視点と経験、リアリティにあふれている。とはいえ、テトラのモデルとなったアイドルグループは、特にないという。

「私の中での“理想のアイドルグループ”を作ろうというところから、人数、名前、メンバーのキャラクターやバランス、どんな曲を歌ってどんな衣装を着ているのか考えて固めていきました。そういう時間が一番楽しかったです」

 アイドル活動と小説を書くという行為に通ずるものは何か。

「もともと人見知りで社交的なほうではなかったんです。だけどステージに立つと、全然別の自分になれる。その世界の中で違う人になることができるというところは、近いと思いました」

 テトラのメンバーの中で自分に近い部分をもつのは、しいていえば、やはりヒロインの実々花だという。

「ちょっと自分に自信がなかったり、すごく考え込んでしまったりするところ。真正直なところもちょっと似ているかもしれません」

 4人組の「テトラ」と大人数グループの「NMB48」。同じアイドルグループでも、違う部分はあるだろうか。

「はい、全然違います。人数が多いと同じ曲でもポジションがしょっちゅう変わって、シングル曲も毎回参加できるとも限りません。だからこそ自分の個性、自分だけの色のようなものを強くアピールしなければ埋もれてしまうという大変さがあります。少人数のグループは、メンバーそれぞれの色を出しやすいでしょうし、グループとしてのフットワークの軽い活動もやりやすいのではないでしょうか。そのかわり、一人あたりの負担も大きくなるでしょうし、人気のあるメンバーとそうでないメンバーとの差がわかりやすく見えてしまうこともあると思います。どちらも良さもあれば、難しさもあるのでしょうね」

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「ガチ恋」の気持ちをどう描写したか