力負けしなかったのはバッティングだけではなく、ピッチングでも同様である。それが強く感じられたのが6回に登板した千賀の投球だ。四球と死球でツーアウト一・二塁と長打が出れば逆転という場面。千賀は決め球の「お化けフォーク」の精度を明らかに欠いており、かなり苦しい展開だったが、ボールスリーからストレートを4球続ける力勝負でキャッチャーへのファウルフライに打ち取って見せたのだ。故障明けで本調子ではないとはいえ、この日の千賀のストレートは登板した全投手の中でも圧倒的な勢いがあり、力勝負で相手を抑え込んだことでチームに与えた勢いも大きかったはずだ。

 最後に稲葉篤紀監督の采配面にも触れたい。選手選考の段階では現在の調子よりも実績を重視したような選考が目立ち、大会中も全てが上手くいったわけではないが、それでも最終的には上手く選手を見極めて起用できたと言えるだろう。特に大きかったのが伊藤の抜擢だ。大会前に第二先発とセットアッパーとして考えていた青柳晃洋(阪神)と平良海馬(西武)が本調子ではなく、投手陣のやりくりにはかなり頭を悩ませたことが想像されるが、メキシコ戦で抜群の内容だった伊藤を決勝トーナメントでは完全に中継ぎの中心とし適用したことが見事にはまった。チームでは先発を任せられているが、大学時代は国際大会で抑えとして結果を残してきた伊藤の強みを上手く見極められたことが、大会を通じての大きなポイントだったと言えそうだ。

 安定した投手陣を中心として堅実な守り、機動力と小技を生かした攻撃というのが長年の日本野球の強みだったが、そこに力勝負できる投手や長打が加わったことが金メダル獲得に繋がったと考えられる。海の向こうでは大谷翔平(エンゼルス)がホームランを量産している年に、村上のホームランが優勝を決める試合の決勝点となったことも決して偶然ではないだろう。今後の国際大会でも、相手打線を圧倒するボールの強さと長打力を継続して発揮してくれることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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