よめはんは万歳を三唱し、タブレットを持ってきてアガった手牌と、泣くわたし、拍手する友だちふたりを撮影した。
その後、“夕食休憩”に入り、よめはんの九連宝燈について意見が交わされた。
「なんで、リーチしたん」
「あれは荘家の牽制リーチ。ローピンを切ったらサンピンが出やすいから」
「そんな筋待ちにひっかかるのは素人さんやろ」
「ピヨコちゃんがひっかかったやんか」
「おれはイーピン、スーピン、チーピンの3面張(サンメンチャン)でリーチした。嵌(カン)サンピンてな汚い受けやない」
「イーピンがあと一枚、スーピンはなし。チーピンがあと二枚しかないやんか」
その指摘は正しい──。
よめはんは今年、九連宝燈を二回もアガった。一回はわたしとのふたり麻雀だが、サンマーのそれは値打ちがある。悔しいが、めでたい。
夕食休憩後の麻雀は午前四時までつづき、よめはんの大勝、わたしの大敗で幕を閉じた。
「お願いです。支払いの儀はなにとぞ、ご容赦ください」
「なにを甘えたこというてんのよ。ちゃっちゃと持っといで」
よめはんの取り立ては鬼より怖い。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年8月20‐27日号