尾身会長は答弁で、「この件に関しては、(事前に)とくに相談、議論をしたことはない」と断言。事実上、この決定の責任者である田村憲久・厚労相は、「病床のオペレーションの問題でありますので、それは政府が決める話でございます」と開き直った。しかし、政府のトップである菅首相は、その事実を把握していなかったと発言。田村大臣の言う「政府」とはいったい誰のことか。前出の厚労省の幹部は「確信犯」だと証言する。
「事前に尾身会長に相談していれば、当然反対される。反対を押し切って政府が決めたとなれば、それはそれで大問題となり今後、『専門家』という都合のいいお墨付きが通用しなくなる」
とした上で、
「オーバーシュートすれば医療体制が困難を極めることは、厚労省から政府に何度も説明していた。けれども、官邸はオーバーシュートしないという、かたくなな姿勢を貫いた。だから、医療逼迫(ひっぱく)が一段落した時に、医療体制の拡充に予算を投下し、病床の確保を急ぐという発想が早い段階で否定されたのです」
自民党総裁選、そして解散総選挙を前に、続投の意欲を燃やす菅首相は、東京都で感染者数「1万人」を超えても、「想定の範囲だ」と開き直るだろう。想定外と認めれば「コロナに負けた」と白旗を揚げることと同じだからだ。その途端、足元から「菅降ろし」の攻勢が始まる。
永田町では感染拡大を理由に、24日から始まるパラリンピックを中止し、国民に政権の危機管理能力と決断力を知らしめ、その直後に解散という噂も流れる。
与野党からの批判にさらされた菅首相だったが、首相官邸で4日、記者団に「今回の措置は必要な医療を受けられるようにするためで、理解してもらいたい」と述べ、「中等症の一部の患者も自宅療養」という方針は撤回しないと早々に宣言した。しかし、現実は「撤回しないのではなく、事実上、できない」のではないか。何が何でも国民の命を守るという姿勢と覚悟が感じられない。これが菅首相の言う「自助」の正体なのだろうか。(編集部・中原一歩)
※AERA 2021年8月16日-8月23日合併号