上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 (c)朝日新聞社
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 (c)朝日新聞社
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 新型コロナの感染が急拡大するなか、五輪が強行に開催された。それらのツケは国民が負うことになる。社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんは、政治家に責任をとらせる責任は私たち国民にあると主張する。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号から。

【競技場、開会式、東京五輪 1964年と2021年を比較したら…写真はこちら】

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 この非常時のさなか、誰が考えても異常な強行開催でした。五輪が始まって以降、新型コロナの感染が急拡大して、「緊急事態宣言の効果がない」などと言われますが、当たり前です。こんな矛盾したことをやりながら「行動自粛に協力しろ」と言ったって、誰も聞きませんよ。8月3日の朝日新聞「天声人語」が、「コロナ禍の日常が『ケ』、五輪による気持ちの高ぶりが『ハレ』」で、「『ケなのにハレ』というややこしい事態」だと書いていたけれど、大いなるカン違い。私たちはいま、「ハレ・ケ・ケガレ」で言う「ケガレ」という非常時のまっただ中にいます。ハレが祝える状況ではありません。

 テレビはうんざりするほど五輪一色の特番シフトでした。コロナ禍前に決めたスケジュールを予定通りにこなしているのか、高い放映権料を払っているからか。ただ、テレビでやっているからといって盛り上がったとは思えません。開会式の視聴率は非常によかったようですが、私も含め、「いったい何をやってるのか」と批判的に見ていた人は多いでしょう。社会からは白けムードを感じます。メダルラッシュだと言いますが、種目の選定など開催国優位は明らか。純粋に喜べない気持ちは多くの人が感じていると思います。

 このまま、パラリンピックも開催するつもりなのか。本来ならばパラリンピックこそ応援したいし、パラリンピックによって街のバリアフリー化も進むのではと期待がありました。しかし、パラアスリートは必要な付き添いスタッフも多いし、障害の種類によってはパンデミックに対して脆弱(ぜいじゃく)です。朝日新聞社が主催の甲子園も開催されるようですが、中止になった去年よりも感染状況はずっと深刻です。都道府県境を越えて多くの人が移動するのはかまわないのでしょうか。パラリンピックも甲子園も、本来中止すべきです。ただ、五輪を開催しているのにやめろとも言えないでしょう。

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