山田洋次監督(撮影/写真部・高野楓菜)
山田洋次監督(撮影/写真部・高野楓菜)
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 山田洋次監督の映画人生で、これほど生みの苦しみを強いられた作品はなかっただろう。映画「キネマの神様」が公開された。主演の志村けんさんの急逝、新型コロナ感染予防対策、重なる公開延期──。現場は以前と一変した。スタッフを支え続けたのは、映画への飽くなき情熱だ。

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 7年の助監督生活を経て1961(昭和36)年、「二階の他人」で映画監督としてデビュー。観客動員延べ8千万人を記録した国民的人気作品「男はつらいよ」シリーズ全50作を始め、第1回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「幸福の黄色いハンカチ」や、「家族」「学校」「たそがれ清兵衛」など数々の名作を世に出してきた。

 映画人生は70年近い。だが、今回ようやく劇場公開になった「キネマの神様」ほど苦労を重ねた作品はなかったのではないか。

 コメディアン志村けんさんの主演が、松竹から発表されたのは2020年1月24日。「面白いことを言える俳優はいろいろいるし、コントやギャグを演じる俳優もいるけど、理屈を超えておかしい。人をおかしがらせることが何よりもうれしくてしょうがない。そういう彼を、映画の主人公にしたくてね」

 山田洋次監督はそう語る。実は、別の作品だったが、志村さんを主役に据えようという構想は以前にもあった。そのときは実現しなかったが、今回は志村さん自身、「やりましょう」と映画初主演の決意を固めてくれたという。

 ところが、運命の神様はかつてない試練を与えた。同年2月22日、志村さんは撮影前の「本読み」に参加。役柄をイメージしながらセリフを読む志村さんの姿を見て、山田監督は「どんな映画になるのだろう」。わくわくとした予感が胸の中に広がっていくのを感じていた。だが翌3月、志村さんは新型コロナウイルスに感染して重度の肺炎となり、東京都内の病院に入院。同月29日、亡くなった。

 70歳だった。

 突然訪れた悲劇。「もう、この映画は作れないかもしれない」と山田監督は思ったが、「無事に完成させることが一番の供養になる」。政府の緊急事態宣言が解除されたのを受けて、6月中旬に撮影が再開された。

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