そしてもうひとつ。重量挙げが「個人競技」であるのも大きいかと。トランスジェンダーのアスリートは今後も増えていくと思いますが、こと「元男性」のアスリートたちが堂々と「本来の性別枠」で競えるようにするためにも、まずは「団体競技」から門戸を開いていくのが良いのではないでしょうか。例えば、最初は「1チームにつき2人まで」などのルールを定めた上で、女子サッカーや女子バレーボール、女子ラグビーなどへの参加を認めるのは、さほど難しいことではなさそうです。
もしくは「女性性」の強い競技であれば、「元男性」でも不公平感は少ないかもしれません。例えばシンクロ(現在はアーティスティックスイミング)。もちろんシンクロも、とてつもない筋力を要する競技ではありますが、女性ならではのしなやかさや線の美しさを競うという点においては、「元男性だから有利」ということはないはずです。今や10代で性移行をする人もいるそうですから、いつか元男性の女性選手ふたりによるシンクロデュエットなんてものも見られるかもしれません。
このような話題になると決まって「それならトランス女性・トランス男性の枠を新たに作るべき」という意見が出てきます。しかし、「多様性」などというものを本気で考え実践していくつもりがあるならば、その考えは「排除行為」にほかなりません。あらゆる種類の男性・女性が「ふたつの性別」の枠に存在し得るのが真の多様性です。
個人的には、女装したゲイの男子フィギュアスケーターが、男子として金メダルを獲るのをいつか見たい! 中年女装男性の切なる夢です。
注釈:「元男性」という表現は、内容の性質上あえて用いました。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年8月20‐27日号