ではスミスはなぜ、大谷だけを名指ししたのか? 注目すべきは、彼が「球界の顔(No.1 face)」という言葉を使っていることだ。1920年代にかのベーブ・ルースがヤンキースでホームランを連発してアメリカン・ヒーローになってからというもの、何人もの選手が球界の顔を担ってきたが、その中で通訳を必要とした者はいない。

 エクスパンション(球団数拡張)時代の訪れとともに外国人選手の台頭が顕著になってからも、1960年代のウイリー・メイズ(ジャイアンツ)、70年代のピート・ローズ(レッズほか)、80年代のマイク・シュミット(フィリーズ)、90年代のバリー・ボンズ(パイレーツほか)と、米国の老舗スポーツ専門誌『ザ・スポーティング・ニューズ』(現在はウェブのみ)が選んできた年代ごとの“顔”を見てもわかるとおり、そのほとんどが米国生まれだったからだ。

 唯一の例外が「2000年代の顔」に選ばれたアルバート・プーホールズ(当時カージナルス、現ドジャース)である。もっとも、彼は生まれこそドミニカ共和国だが、16歳の時に渡米してミズーリ州の高校に通い、短大在学中にドラフト指名されてプロ入りしている。そういう意味では、外国人といえどもそこまで英語に不自由することはなかった。

 ちなみに『ザ・スポーティング・ニューズ』が「2010年代の顔」として選んだのが、大谷と同じエンゼルスのマイク・トラウト。メジャーデビューから昨年までの10年間で通算302本塁打、201盗塁、打率.304、OPS1.000をマークし、ア・リーグMVPに輝くこと3回というスーパースターだ。ただし、決してトラウトのすごさを矮小化するつもりはないが、今の大谷が成し遂げていることはハッキリ言って次元が違う。

 8月18日(現地時間)のタイガース戦では「一番・投手」で出場し、打っては両リーグ一番乗りで40号ホームランを放つと、投げては8回1失点で8勝目。この試合で今季100投球回に到達し、100奪三振、100安打とあわせてシーズン「トリプル100」を達成したが、これは1901年以降のいわゆる近代メジャーリーグでも、大谷のほかには誰も成しえなかった偉業だという。

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大谷は英語を話すべき?