もっとも、清田は前年に結婚していた。「問題はなかったんですか」と思わず尋ねると、こう答えた。
「夫もソニーで研究開発をしているんです。『いってきてもいい?』『いっておいで』みたいな感じで、送り出してもらいました」
このあたりが、ひと昔前とは肌感覚の違うところだ。単身米国へ渡って勉強したいという妻と、快く送り出す夫という関係は、昭和の時代なら考えにくいだろう。
しかし、清田夫妻にとっては当然のことだった。彼女は単身、米国へ向かった。
サンディエゴで3カ月間、現地のチームと一緒に仕事をしながら学んだ。通常、日本で開発した製品は、米国向けであっても現地で使ってもらって検証することは難しい。そこで、その部署では、さまざまな国から米国市場向けの製品を受け入れ、ユーザーに試してもらったり、検証したりする仕事を行っていた。
清田も、一緒に市場調査やユーザー調査、検証を行った。
「日本では、専門の人が少しだけ知っているような知識について、アメリカではどんな方法で調査していて、どういうふうに学べばいいのか。学んだことを持ち帰ってフィードバックしました」
清田は、日本のソニーに「人間中心設計」の考え方を輸入した。
現在ではインターフェィスの改善などに限らず、製品の仕様や企画にさかのぼってUX をデザインする段階まで仕事の領域は広がっている。
(文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)
※AERA 2022年11月28日号より抜粋