

かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第3回は、企業の受付から起業家に転身した、ベンチャー企業RECEPTIONIST(レセプショニスト)のCEO・橋本真理子(39)だ。AERA 2021年9月6日号の記事の1回目。
【写真】オフィスで談笑する橋本さん。渋谷の高層ビルに入る本社には大きなフリースペースが…
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東京・渋谷のランドマーク、セルリアンタワー11階。「日本を代表する総合インターネットグループへ GMO」と書かれた円筒型の受付カウンターの中には、常時3人が待機する。
「かっこいいなあ」
その一人、橋本真里子はテーブルの下に忍ばせたスマホの画面をこっそりのぞき込んだ。仕事中にスマホを見ていて良いわけがない。この道10年の彼女が知らないはずもないが、どうしても衝動を抑えられなかった。
橋本が見ていたのは、ベンチャー育成の一大イベント「IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)」の目玉企画「ローンチパッド(発射台)」。予選を勝ち抜いた起業家の予備軍が、ベンチャー投資家(VC)の前でピッチ(ビジネスのプレゼンテーション)を行う。優秀者は出資を受けられる。
腕に覚えのある起業家たちが「我こそは」とピッチを繰り広げる。その感想を後に橋本は自分のブログにこう記している。
<受付嬢では参加が許されぬイベント。(中略)出ている人みんなかっこいい…いつか出たい…自分の言葉で自分たちのサービスを伝えるってすごいなーってずーーっと思っていました>
■近くて遠い起業家たち
それは橋本にとって近くて遠い世界だった。大学卒業から複数のIT企業で受付をしてきた橋本は、多くの業界関係者と顔見知りになった。ローンチパッドに登場する起業家も、何人かは知り合いだ。審査しているVCにも知己が少なくない。
「マリちゃん、週末空いてる? お客さんとのゴルフ、付き合ってくれないかな」
「取引先と会食なんだけど、俺たちだけだと間がもたなくて」