落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「パリ」。
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『パリ』とは関わりの無い人生を過ごしてきた。ドイツのデュッセルドルフ、ベルギーのゲント、スペインのマドリード、フィンランドのヘルシンキ、スロバキアのブラチスラバ……など色んなところで落語をやったが、パリは未踏の地。「一度でいいからオラも行ってみてぇだよ! 花の都パリに!」と現地スタッフに言うと、たいがい「いやー、あそこは治安が良くねぇだ、恐ろしいとこだべ」と返される。なぜ訛ってるのかは置いといて、何となくそんなやりとりだったんだべ。
私の周りに『パリ』っぽいモノはないかと探すと、カバンの中に楽屋のケータリングからかっぱらってきたお菓子が。ブルボンのルマンド。完全にフランス。完全にパリ。社名はフランスの名家『ブルボン』からとったんでしょう?(本当はコーヒーの産地『ブルボン島』からとったらしい)。『ルマンド』だってフランス語でなんとかって意味でしょう?(『ル・モンド』は仏語で「世界」の意味)。慌てて食べると歯肉に刺さりがちだし、ルマンド。口中の治安が悪くなりがち。幼い頃「こぼれるから気をつけて食べな」とお婆ちゃんがくれたルマンド。まだ生きてたらお婆ちゃんは「パリなんてそんなおっかねえとこ行くなよ、とし(私の本名)」と止めるだろう。
行くなと言われると行きたくなるべさ、婆ちゃん。ちょっと気後れはするけどね。何しろ『花の都』『芸術の都』『メガネのパリーミキ』の『パリ』である。子供の頃、CMで観ていた「♪メガネのパリ~ミキ~」。確か『パリー』って伸ばしてたけど、なぜ『パリー』? 検索してみた。スマホ便利だね。ベンリー。「昭和5年、姫路に創業した正確堂時計店が前身。のちに眼鏡販売業『メガネの三城』となった」らしい。「以前は西日本では『メガネの三城』、東日本は『メガネのパリーミキ』としていたが、現在では『株式会社三城ホールディングス』となっている」らしい。待て。『正確堂時計店』!? 「時計が正確」! センス抜群。なんてストレートで生真面目なネーミング。「初めての腕時計はやっぱり『正確堂』だな、母さん」と中1の息子の誕生日プレゼントを相談する夫婦が姫路には沢山居たろうな……調べてみると、墨田区、厚木、福岡、下妻、沖縄と日本中に『正確堂時計店』は何軒もあるじゃないですか!? 日本の時計、正確過ぎやしませんか。