こうした臆測に基づいた中傷は、法的には問題はないのか。

 医療が逼迫(ひっぱく)する中、入院を希望したがかなわず、自宅療養中に亡くなってしまった悲劇が相次いで報じられている。ただ、綾瀬さんは入院したとはいえ、体調が完全に回復したという根拠はない。療養を終えたとしても、長く後遺症に苦しみ続ける人もいる。

 ネットでの誹謗中傷問題に詳しく、亡くなったプロレスラー木村花さんへの中傷投稿に対し、花さんの母親が起こした裁判で代理人を務めている清水陽平弁護士は、

「花さんの一件があれだけ報じられ、大きな議論が起きたにもかかわらず、世の中は何も変わっていないということがよくわかる現象だと思います」

 と率直な思いを口にする。

 刑法の名誉毀損は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とある。

 清水弁護士はこう解説する。

「名誉毀損は『事実の摘示』、つまり検証可能な事実関係が必要とされています。ひどい内容であっても、『芸能人だから優遇されたのかもしれないね』などの書き込みであれば、『事実の摘示』ではなく個人の感想の範囲に入るため、法には触れません。ただ、これが『上級国民だから特別扱いで入院した』『事務所が裏で手をまわした』『大金を使った』などと断定的に書いた場合、相手の社会的地位を低下させるものとして名誉毀損となる可能性が出てきます。また、今回の綾瀬さんや事務所に対する書き込みはデマと思われる内容が多いですが、書き込みの内容がデマではなく真実だったとしても、その書きぶりや表現内容によっては、名誉毀損や侮辱が認められる可能性があります」

 ただ、初犯の場合は罪に問われないケースが大半。前科がある場合でも懲役刑にはならず、罰金30万円が“相場”だという。

 さらに、名誉毀損は「親告罪」のため、被害当事者が告訴をしないと起訴されない。

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泣き寝入りせざるを得ない現実